2003.04.17 update
 FanFiction Novel 「饒舌なキス」: FINAL FANTASY XI


ミスラとエルヴァーンは、みんなが想像している以上に身長差が大きい。
彼とあたしが向き合うとあたしの目の前には彼のお腹がある。引きしまってて、筋肉が割れてて固そうなお腹。装備の隙間からみえるお腹をつんつんとつつく。
「うひゃひゃはは! って何してんだよこの猫わ!」
ぺしっ、と彼があたしの頭をはたく。
「んに"ゃっ! ぶつことないでしょぉー」
「うるさいノラ猫。邪魔するな」
「むぅー……」
あたしは頭を押さえながら、競売前の人込みをすり抜けた。
だいたい彼は男の癖に買い物が長い。今からパーティでモンスター倒しに行こうってのに戦士が山の幸串焼き以外に何を買うっちゅーのか。どーせ新しい武器か防具が欲しくて悩んでるに違いない。
戦ってる姿は強くてカッコイイから、いい武器そろえるのは大賛成だけどー。
ヒマだから宅配所で荷物整理なんかしてると、やっぱし。彼が目新しい片手斧を抱えてニマニマしながら、歩いて来るとこだった。
ぴょんと立ち上がり、両手を広げて彼を迎える。思いっきり愛情を込めて抱きついたのに、彼は歩調を緩めないまますたすたと歩き続ける。
お陰であたしは彼の腰に抱きついたまま、ずるずると引きずらてしまう。
「……」
「なんだよ歩きにくいな。ほれ、ちゃんと立てよ」
彼があたしの首根っこをつかんで立たせた。
その時だった、聞き覚えのある声が、競売所の人込みを突き抜けて届いたのは。

「ティナー!」
高い女性の声だ。思わずぴん!と耳がたった。振り向いた視線の先には懐かしい女戦士の長身があった。
「あっ、レイヴンさむぎゅ」
競売所前はすごい人ごみなのに、その間を苦もなく駆け寄って来たレイヴンさんは、そのままの勢いであたしを抱き締める。
膝をついた彼女の胸にがっしりと抱き込まれて、苦しい。けど、嬉しかった。ずっと逢いたかったから。もう逢えないかも、そう思ってたから。
ひとしきりあたしを抱きしめたレイヴンさんが、満足したのか身体を離した。あたしは彼を紹介しようと口を開けかけて、塞がれた。その唇で。
「んんんーっ!!」
まずいまずいまずい。彼に誤解されちゃう。あたしは手をつっぱって抵抗したんだけど。かなうはずなかったんだ、そういえば。
柔らかい舌がするりと入って来て、探るように口の中をまさぐっていく。舌をゆるく吸わればがら、溢れそうになる唾液を飲み干す。あたまがほわんとなって、とろけるような気持ちになるキス。
彼女が唇を解放してくれた時には、あたしはすっかり力が抜けて、頬を包む彼女の腕にすがりついていた。はふぅ……と思わず吐息が漏れてしまう。
「んふっ♪ 相変わらず可愛いわねティナ、食べちゃいたいわ。それで、いつジュノに来たの?大変だったでしょう?」
視線を合わせ、軽く頭を撫でてくれながらレイヴンさんが優しく話し掛ける。あたしは答えようとして、ひっ、と息を飲んだ。あたしとレイヴンさんの顔の間、正確にはレイヴンさんの鼻先に斧の切っ先が突き付けられたからだ。
(げ、忘れてた)
あたしは青くなった。斧の持ち主はもちろん彼だ。これ以上ない程の険悪な黒い雲を背負って、あたしたちを見下ろしていた。

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